FILM 1/30e No.5 1998年6月発行

三つのアニメ・フェスティバル (後編)なみきたかし
▲キャロライン・リーフ(右)Photo by T.Namiki
 ハンガリーのカチカメット映画祭は良い意味で期待はずれの楽しい映画祭であった。アヌシー、ザグレブのような老舗にはない大らかなところのある運営で、僕自身がやりたい国際映画祭にとって大いに示唆を含んでいた。映画祭に慣れすぎた方々に参加を強く勧めたいものだった。
さて、「世界の車窓から」風にハンガリーを列車で離れ、半日程でクロアチア共和国のザグレブ駅に向かう。フェスティバルも三つ目だが、これまでそれぞれバラエティにとんでいた旅であり、またこのザグレブはアヌシーと並ぶ老舗の大会なので、コンペにそろう作品も期待されることから新鮮な気持をぼくも失わずに臨むことが出来た。
 駅で一緒になったハンガリーのギゼラ女監督と指定のホテル・シェラトンに向かう。ごうじゃすです!
立派なホテルに立派なガイドブック、どでかい会場リシンスキ−ホールと老舗の風格が横溢している映画祭なのであった。
 6月10日から5日間の会期中に大ホールでは毎日3つほど、小ホールでは5つほどプログラムが組まれた。朝10時台と夜7時にご当地ザグレブ・フィルム、イギリスアニメ、ハンナ・バーベラの特集がシリーズであり、なぜか午後はスパッとなんにもない(!)のはすごい構成だ。夕方まで何もないのだ。そしてメインのコンペティションが21時からで、夜更かしの僕にはとてもうれしいね。「A Close Shave」が人気なのは当然で、ぼくはJanet Perlmanの「My Favourite Things That I Love」が好きでした。ちょっとPAFの作品みたいでけど。このPerlmanの旦那さんDerec Lamb他5人が国際審査員だが、なんといってもポヤール監督が審査委員長として加わっていて、もう何度目になるか解らないけれど、この巨匠との再会がうれしかった。風光明媚な山腹のレストランで半日以上ただ飲んだり話したりするというピクニックの日、親しい人間もいないのでおとなしくしていたら、ポヤール氏が声をかけてきてしばし話し相手になってくれた。
▲授賞式でのB.ポヤール監督 Photo by T.Namiki

さよならパーティの時も、「もう歳なので...」と僕が弱音を吐いたら「これからが人生で一番面白い時だよ」と励まされてしまった。彼は 1921生まれだから、77才だ!う〜ん、説得力があるなあ、と一変に気を取り直してしまったものだ。
 そういえば、長年のファンであったは、キャノライン・リーフ監督とも初めて話が出来た。同じホテルだったので何回がスレ違うのだが、紹介してくれる人がいないのでしかたなく自分で話しかけた。彼女は特別ゲストでもあり、功労賞のようなLIFE ACHIEVEMENT AWARD というものも最後に受賞したけれど、友人達が彼女をモチーフにして制作し彼女に捧げた短編が上映されたことが印象的だった。ドリエッセンも参加していたっけ。
▲ボリボイ・ドブニコヴィチ&ボブ・ゴッドフレイ Photo by T.Namiki

 参加作品での収穫はまずピャルンの「1895」でグランプリに輝いたがこれは僕も納得の傑作だ。何故か広島では予選落ちしたけれど...。
デビュー作を「クウェスト」QUESTが受賞した。後にアカデミー賞を取った作品だがそれほどでもないと思う。
他の賞では"INTERNET FAVOURITE"というものを「ウォレスとグルミット/危機一髪A CLOSE SHAVE」がとった。これも何故か広島では予選落ちしたけれど....。
しかし、何を一番楽しんだかといえば、当日出来上がってきたばかりの新聞を受付嬢が総出で(たぶんボランティアだろう)受付をしながらページ順に挟みこんでいたことだ。おお、うちと同じだっ!と喜んだ次第。それが、作品鑑賞より楽しいなんてついに僕のひねくれた根性も極まった感があるというものだ。
と、こんなことを書いていたら、ザグレブ'98の案内が来てしまった。いや、歳をとると月日の経つのが早いなあ。違うか。いや申し訳ない。次号もザグレブの事が載るかもしれないが、続きじゃありませんよ。(了)



国際宇宙船会社訪問記


▲Masahiro Katayama,Marv Newland and Takashi Namiki at International Rocketship Ltd. 1996.Photo by Kiyoshi Kohatsu
 マーブ・ニューランド氏は、変なアニメーション作家であり奇妙なイラストレーターとして世界中に知られる監督だが、僕の大切な友人だということは世界中が知っているわけではない。最初は「バンビ対ゴジラ」という1分程度のとんでもないイージーな作品で注目を浴びた。そのまま消えていくかと思っていた人もいるかもしれないけれど、彼は着実に作品を発表していって、最近の彼はその作風のようにふざけてはいない、真面目な大監督&大プロデューサーになった。
95年のアヌシー映画祭では、「GARY LARSON'S TALES FROM THE FAE SIDE」が、COMMISSIONED FILM AND TV FILMS 部門でグランプリを受賞した。この作品は、30分のブラック・ユーモアに満ちた楽しい作品だが、広島フェス'96ではコンペに入選できず、広島の選考委員を選考したのは誰か大いに問題になったほどの傑作である。
 マーブは、85年の第一回広島大会の後、東京に寄った際に当時荻窪にあったわがアニドウの事務所を訪れてくれた。寿司を一緒に食べに行き、土産には当時流行っていたゼンマイで動く寿司のおもちゃを贈った。「今度はそちらへお邪魔するよ」とその時言った約束を僕は10年以上たって実現するべく、一昨年10月にカナダのオタワで開催された国際アニメフェスティバルの帰りに、バンクーバーにある彼のスタジオを訪ねることにした。
ザグレブやアヌシーであうたびにさかんに「バンクーバーにはうまい寿司屋がたくさんある」と彼が豪語していたことを執念深い僕は覚えていて、シマウマになったらしい。その時同行してくれた片山雅博氏もぼくも大の寿司好きで、機内からふと見かけたバンクーバーの街並みにその血が騒ぎ、味見に飛行機をわざわざ降りた次第である。(これはウソで見学は予約してある)
その夜は何故かホテルで知り合ったばかりの中国系カナダ人に連れられて、彼のなじみの寿司屋で目的の寿司を味わうことが出来た。
Photo by TAKASHI NAMIKI
▲Dieter Mueller, from Germany, he is Marv Newland's ICHIBAN DESHI, Animation director at Rocketship for the last 15 years. one ofthe best tv commercial director in north america.

▲ Mike Girard, former animation director for "the Simpsons" for 5 years.
 翌日は午後早めの便で帰国しなくてはならないので、間隙をぬってスタジオ見学に行こうと早くから動き出した。
タクシーにのって住所だけを頼りになんとか彼のスタジオ「国際宇宙船株式会社」を探しあてたときは約束の午前10時ちょっと前で、こんな朝早く僕らが動いているのは日本では考えられない。
ところが!さすがアニメ関係者、肝心の社長が来ていないではないか!
受付嬢が言うには車の故障でマーブは遅れるという。しかたなく受付で待ち、ひとりふたりと関係者が出社してくるのを眺めていた。その中でどうも日本人のような人がいたので気になっていたら、彼が話しかけてきた。名はコハツくんと言い、アニメーターとしてこのスタジオで働いているという。そのうち社長に案内係を頼まれたようなので、一通り案内してもらうことにした。
ペルー生まれで数年しか日本にいなかったというが、飛んで火にいる通訳というところか。
 このロケットシップリミテッドはビルの2階ワンフロアーの手頃な大きさのスタジオだけれど、作画監督、演出、美術監督など、主要なスタッフを抱え、どんな番組も開発できる体制になっているようだ。マーブ自身はインディペンデントな作家として、ユニークな小品を発表してきたが、スタジオが大きくなりテレビ番組なども手がけるようになった。
「GARY LARSON'S--」のアヌシーグランプリ受賞でこれからの事業に弾みがついたようで、来シーズンには米テレビで独自の枠が提供されそうだと、コハツ君が言う。また、コンピュータの導入も間近だそうだ。

▲Danka Rogula, from Poland; Background artist and one of the best in canada.
▲Vicki Giesbrecht, cell painter.
▲Kiyoshi Kohatsu/小波津きよし氏
ここにのせた写真のような方々を次々に紹介してもらったわけだが、図書室兼試写室にはアニドウの本もたくさんあるし、社長室に張ってある手塚治虫さんとマーブの写真はぼくの撮ったものだし、なんだか親しみがわく所じゃないか。
そのうちやっとマーブがやってきて、(アトムのトレーナーを来ているサービス精神に脱帽)社長業をこなすかたわらあれこれ話してくれたが、我々が空港へ向かう時間が来てしまって、長居は出来なかった。第一約束の寿司はどうした!今後行ったときは約束通り寿司をくわせてほしいものだ。
彼のスタジオはますますメジャーになるだろう、これまで通りの毒をもった作風を失わず個性的なアニメーターを抱えてユニークな番組を作っていくことを期待したい。
たった数時間のことだったが、充実した時間となったのは小波津氏、はじめスタッフのおかげと感謝したい。こんなスタジオをぼくも作りたいものだっ!


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