FILM 1/30e 号外 1999年7月発行


アヌシー国際アニメーション・フェスティバル報告

これは朝日新聞用に書いた原稿の元の形です。7月1日夕刊に掲載されたものとは、ちょいと違います。


 
When the Day Breaks

「日本のアニメが世界で人気」とかいう戯れ言を最近耳にする。
その「世界」とはどこなのかはよく知らないが、6月5日まで5日間に渡って開かれたフランス・アヌシー国際アニメーション映画祭は、その規模において世界最大のアニメ映画祭なのだから、世界の一端ではあるに違いない。
 今月の5日まで6日間に渡って南仏で開催されたアヌシー国際アニメーション映画祭は、この種のイベントとしては最古にして最大の映画祭であることは間違いない。
 私が初めて参加した24年前は、上映会場は二つ、プログラム数もわずか20であったが今では会場は七つ、そしてプログラム数は60という規模にふくれあがっている。

今回上映される総作品数は、コンペ、特集をまとめると約500本という数字になる。
さらに1960年を第一回としてから長年隔年での開催であったのが、一昨年から毎年行うこととなり、量的にも倍増したと言えるだろう。
 これは長い間、劇場用ではディズニー、テレビでは日本のものに席巻されてきたヨーロッパの市場で、独自の製作が多くなってきたことも一因だが、そうした商業的なアニメーションを映画祭へ積極的に取り入れ、合わせて従来なかった番組売買の見本市を拡充させてきたここ十数年の施策の商業的な成功といえるだろう。
 芸術的な短編を中心に据えながら、アヌシーは長編作品を受け入れ、ディズニーにも大きく協力を仰ぐようになった。世界最大のアニメ量産国である日本も欠くべからざる存在と認識されたかのように、93年には宮崎駿、95年に高畑勲の両監督が招待されて大いに注目を集めていた。今年は両氏の先輩である日本アニメ界のベテラン、大塚康生が特別ゲストとして招待された。
 またプログラムの面でも、日本アニメのパイオニア政岡憲三から宮崎駿までの資料展示に加え、「戦前〜戦後」「60〜80年代」「手塚治虫特集」など様々日本作品上映が組まれた。中でも高畑・宮崎・大塚トリオの傑作「パンダ・コパンダ雨降りサーカスの巻」と故近藤喜文監督のパイロット版「リトル・ニモ」を公開した意義は、オープニングセレモニーの特別上映を飾った「もののけ姫(仏語字幕版)」の上映にも勝るものがあった。
 こうした多くの懐古的プログラムはあったが、審査対象となった最新の作品は少なくて、「しかと」うるまでるび監督、「音響生命体ノイズマン」森本晃司監督などが短編部門に、「人狼」沖浦啓之が長編部門に入選していたが無冠に終わった。
 我々5人の国際審査員は学生作品部門とTV部門を除く、短編と長編を審査対象としていて、41本の短編、5本の長編から授賞作品を選んでいった。ブラジル、チェコ、ポーランド、フランスと国こそ分かれてはいたが、ほとんど意見の相違のない選考過程を経て次のように授賞作品を決めた。
 まず長編部門は「キリクゥと魔女」(ミシェル・オスロー監督/仏他合作)。小さなヒーローと魔女の対決を描く冒険談のようだが、意味深いストーリーと単純でないキャラクターによって、味わいのある長編となった。
フランスの劇場ではひさびさのヒット作となったというこの作品は、これまで全くの子供だけを対象に作ってきたヨーロッパの長編の転換点となるのではないかだろうか。
残念ながら日本の観客の求めているテイストが違うために、こうした長編は日本で大きく公開されることはないだろう。
 最も注目される短編部門では、「目覚めの時(When the Day Breaks)」ウェンディ・ティルビー/アマンダ・フォービス共同監督が人間の感情のひだに迫る映画的手法が傑出しているとして、グランプリに輝いた。
 マンガ的でなく擬人化された動物達の日常生活を描き、事故を目撃したことで主人公が新しい意識に目覚めていくさまを美しいタッチで描いたもの。
 ガラスの上に描いては拭き取り書き直していく手法は現在では複数の作家が試みているが、ティルビー監督は第一作の「やすらぎのテーブル」から完成度の高い映像を見せて、次作「ストリングス」(1991)ではアカデミー賞にノミネートされた実力派女性監督だ。
次に8年間を掛けて完成した10分の本作が三作目という寡作だが、その完成度を見て頷けるものがある。先だって行われたカンヌ映画祭で既に最優秀短編賞を受賞したという報がもたらされたが、これ以外にないと、審査員の全員一致で選出された。
 その他審査員特別賞には、愉快な「さいはての暮らしAt the End of the Earth」コンスタンティン・ブロンジット(仏)、特別技術賞は、「ひまつぶしHumdrum」ピーター・ペーク(英)と「ジョリー・ロジャーJolly Roger」マーク・ベイカー(英)が、そしてサウンド技術賞として、実験的な抽象作品「ファイアハウスFirehouse」バベル・ヌーバウアー(米)が選ばれた。
 今回の審査対象には3Dアニメーションの作品も多かったが総じてプロモーション映像のようであり、人間そのものと見まごうまでに技術は進歩したが、その上で作品となりうる要素が欠けていたように思える。
 審査過程で意図的に導いたわけではないが、「目覚めの時」が選ばれたことは、安易な長編製作、コンピュータによる拙速な創造への警鐘ともなったのではないだろうか。
と同時に、映画祭そのものの過度の商業化に対するメッセージになったのではないかと信じている。
 8年をかけて10分の作品を作っても報われる世界があってほしい。それは決して商業的には成功しないものではあるが。

なみきたかし(国際審査委員/プロデューサー)


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